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2020年10月15日

 

 ねえねえ、お母さん。

「慌てる乞食はもらいが少ない」

って知ってる?

 昔はね、五条大橋とか、上野駅前とか、乞食がたくさんいたんだって。

 でね、プロがいてね。

 うなだれて、憐れみと同情を誘う風情を妥協なく演出し、絶対に焦らない、ゆるぎない不動心を備えたストイックな豪傑がね、一番もうかるんだって。

 つまり、「乞う」乞食は、業界では生き残れない。

 「急いては事を仕損じる」

 「マントは北風より太陽で脱がす」

 「あわてなーい、あわてない。一休み一休み」

 みんな同じような意味なのかな。

 ってば、お母さん、聞いてるの?

 でさ。ボクはね、フジコちゃんが好きなんだ。クラスの男子は誰もが一度はフジコに恋をする...と、少なくともボクはそう信じてんだけどね、つまりボクだけのアイドル。

 でね、学んだ諺からさ、フジコちゃんの心をどうとらえるか、だよね。

乞食にしろ、色恋にしろ、商売にしろ。感情任せと無計画は失敗必然。何事も焦っちゃだめ。「動かざること山の如し」だよ。

 作戦を考え、己を律し、それを冷静に着実に実行していく。

 そして機が熟したとみるや、「いざ関ケ原!※」とばかりに、風となり、火となり、ボクは槍をりゅうりゅうとしごいて決戦に挑む。

※1600年10月21日

 料理もそうだよね。なかぬなら、なくまで待とうホトトギス。ああ、なんて甘美な響き。

 そう強火でせかせかやったって、中までちゃんと火の通った、

 「家族の幸せがそこにあります」

みたいな料理はできないよ、お母さん。

 まずは外堀を埋め、つぎに内堀を埋め、そして本丸ってわけさ。

・・・

 諺を散りばめ、しまいにはおふくろの味にまで説教する小5だったら、フジコちゃんにはたぶん嫌われるだろうな。

 ま。

 こんなはずじゃないのに、と現実の自分を理解していくことがさ、人生なのかね。

 省察せよ、とか言われたりして。

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